クリーニング業界の最大汚点
クリーニングの建築基準法問題
クリーニングの建築基準法問題は、2009年7月、業界第三位の大手業者が朝日新聞等によって摘発され、それがきっかけとなり、クリーニング業界ほぼ全体の違法行為が発覚した業界問題。クリーニング業者が使用するドライクリーニング溶剤である石油系溶剤を、建築基準法で禁止する住宅地、商業地で多くのクリーニング業者が違法に使用していた事件の総称。
クリーニングと建築基準法
(石油系ドライクリーニングの洗濯機)
各クリーニング業者はドライクリーニングと水洗い(ランドリー)を行っている。水洗いは基本的に家庭洗濯と同じ原理で行われる。ドライクリーニングはウール、絹など水では洗えないものを、別の溶剤で洗うことをいうが、2008年時点で94%の業者が石油系溶剤をドライクリーニングに使用している。石油系溶剤は灯油に近い成分で、引火性があり、引火性溶剤に分類される。
建築基準法では48条に「建築物の用途」を定めており、土地の用途を12に分割しているが、それは工業地、商業地、住宅地の三種類に大別される。このうち、ドライクリーニングに使用する引火性溶剤は、工業地のみでの使用を許可しており、商業地、住宅地での使用は禁止されている。
クリーニング業者が使用する石油系ドライクリーニング洗濯機は、石油系溶剤を200リットル以上溜めておくタンクのような構造になっており、これに火がつけば爆発的に炎上する。建物はあっという間に全焼し、周囲への延焼の可能性も高い。このため建築基準法で規制されている。
建築基準法が施行されたのは昭和25年だが、そのころには国土に明確な用途地域の決定が成されておらず、昭和45年~47年に全国で用途地域が決められ た。この時点で商業地、住宅地で操業するクリーニング所は多くあったが、行政はこれらの業者を既存不的確とし、設備の拡充や変更をしないことを条件に操業 継続を認可している。
2009年7月、業界屈指の売上を誇るクリーニング会社が朝日新聞や共同通信の記者により摘発された。この会社は全工場の約半数に渡る20数カ所の工場で違法操業を行っていたが、実はこの様な方法で会社を拡大していた業者はここだけではない上、行政の不備により、悪意性がなくとも違反状態であるクリーニング所も数多く発覚し、業界の大きな問題になり、現在も終息していない業界問題となっている。(建築基準法には面積や高さの制限等もあるが、ここでは引火性溶剤の問題に絞って記載するものとする)
建築基準法違反発覚の経緯
2009年7月9日、さいたま市の建築課が以前より違反行為が疑問視されていた業界団三位の大手業者の工場を立ち入り検査し、近隣商業地域で石油系溶剤を違法使用していたことが発覚。
7月11日、この業者の違法行為が朝日新聞をはじめとする各紙に全国版で紹介され、違法行為が一般に公開された。13日、青森から埼玉に至る各地の建築課が同業者工場各地を立ち入り検査し、各地での違反が発覚した。この業者はこの時点で23カ所の地域で違反が発覚し、行政から工場移転か溶剤の変更を指導される。
18日、朝日新聞はこの業者が行政に対し、実際には使用していない溶剤などを虚偽申請していたことを報じる。
12月27日、業界第二位の業者がやはり朝日新聞によって摘発され、第三位、第二位の業者が相次いで摘発されたことを受け、国土交通省が全クリーニング所の調査に乗り出すことになる。
実は違反が当たり前だったクリーニング業界は騒然となり、業界紙なども不安をかき立てたが、業界内の会社、組織、団体などからは、違法行為を重ねていたことに対する反省の弁は全く聞かれない。
2010年2月24日
国土交通委員会で民主党・村井宗明議員が「クリーニング業者がかわいそうだ、是正措置を」と不正・違反業者を救う発言を行い、この発言はほぼ了承され、以来国土交通省の追求は一気に軽減される。
2010年9月11日
国土交通省は、全クリーニング所の調査結果を発表し、「全体の50.2%にあたる約14500軒が違反常態」と発表。
以降、国土交通省はこの問題について、各都道府県に判断をゆだねる方向に転換、各地域で同じ法律なのに異なる判断が成されている。
建築基準法違反の原因
2010年9月、国土交通省は全クリーニング所調査結果を発表、50.2%が違反としたが、2009年7月11日に最初の業者が摘発を受けた時点でこの問題は業界全体に伝わり、特に大っぴらに違反していた業者達は隠蔽に走った。国土交通省が実際に調査を開始したのは2010年2月以降であり、この約半年間に合法化した業者はかなりの数に上るものと思われる。その様に考えれば、実際には全体の7割を超えるクリーニング所が建築基準法の用途地域違反をしていたものと考えられる。この様に違反が多かったのには、以下のような原因がある。
○行政の不備
用途地域が決定したのは昭和45年からだが、その時点で商業地、住宅地で操業している業者は既存不的確として「既得権」が与えられた。しかし、家を建て替えたり、機械設備を増設すればその時点で既得権は失われることがある。行政は40年近くこの問題を放置し、調査することもなかった。このため悪意性のあるなしにかかわらず、各業者は違反状態となった。
○縦割り行政
昭和40年代にはドライクリーニング溶剤の主流はテトラクロロエチレン(通称:パーク)という塩素系溶剤だった。この溶剤は毒性や発ガン性が問題となって後に後退するが、引火性はない。この時代にはこのパークが主流だったため、この溶剤で開業する業者も多く、商業地や住宅地でも合法だった。後に土壌汚染の問題などから保健所の視察が厳しくなり、保健所職員らによって「パークをやめて、石油にしろ」というような指導が多く行われたという。保健所にとっては正論な指導も、建築基準法上は違法となってしまうことがある。縦割り行政の弊害によって違法となったクリーニング所も多い。
○クリーニング業界のまとまりのなさ
日本のクリーニング業界は明治時代から職人芸的な技術職として全国に伝わり、昭和32年には当時の厚生省の後押しで組合が結成され、それを中央の全国クリーニング生活衛生同業組合連合会(全ク連)が統括する組織だったが、昭和40年代に大量生産ができる洗濯機や仕上げ機が登場すると、この業界に大手業者が徐々に出現し、低価格で市場を奪っていった。既存の組合は新規参入の大手業者を歓迎せず、組合入りを拒むことが多かったため、業界は全くまとまらず、ほとんど規範も何もない状態となっている。業界全体としてまとまった見解がなく、特に大規模な業者ほど独自に展開するので、法律違反を止めることが出来なかった。
○利便性
顧客に上質のサービスを提供するためには、より顧客に近い場所で受付し、作業することが理想となる。法律に従って工業地に作業所を建てても、それは工場としての機能しか果たさず、店舗から遠くなる。顧客への利便性(=業者の利益)を図るため、クリーニング業者たちは法を犯し、行政をごまかして商業地・住宅 地に出店した。
○過当競争
日本のクリーニング店は現在でも14万軒あり、人口当たりの軒数としては世界一位。各業者はしのぎを削って競争しており、価格競争も厳しい。そういう中で他社との競争に打ち勝つため、まず悪質な業者が法律を破り、それが他の業者にも伝わって日常化したものである。
○業界の閉鎖性
クリーニング業者は他の社会との交わりが薄く、業界内の人々だけで接し、日々を過ごす人が多い。そのため違法行為が「業界内の常識」となっていて、問題があると気付かなかったことも原因と考えられる。
違反業者のタイプ
建築基準法に違反していたクリーニング業者は、おおよそ三つのタイプに分類される。なお、厳格に三つに分類されるということではなく、その中間に属するものなどもある。
1,職人タイプ
このタイプは従来からいる個人業者、零細業者で、比較的規模の小さい業者達のことである。従業員はほとんどいない家族経営であり、料金は高いが、比較的きちんとした仕事をする業者でもある。ただし、納期、価格など現代の顧客が要求するサービスには応えられず、次第に減少している。
このタイプに悪意性はなく、用途地域の決まる昭和45年~47年以前より祖先が営業していたが、行政が全くタッチしなかったので、家を建て替えたり、設備を拡張したりして違反状態になってしまった事例が多い。ある意味気の毒ではあるが、建築基準法の存在自体を知らない業者も多い。組合加盟者が多い。
高齢者が多く、設備も老朽化しているので、悪意性がなくとも、火災の危険性がないわけではない。
○街中にある個人業者。
○悪意性はない。
○建築基準法自体を知らない人が多い。
○組合員の大半がこのタイプの業者。
○近年は老朽化が目立ち、廃業する人が多い。
2,中小企業の社長タイプ
このタイプは昭和40年頃に創業、工場を作って廻りに取次店をたくさん作ってきたが、最初に工場を建てたとき、ドライクリーニング溶剤を当時流行のテトラクロロエチレンにしたものの、時代の要請でこの溶剤が合わなくなり、石油系溶剤に変更し、結果として違反状態となった業者が多い。現実には大手業者にはこのタイプが大半。法的に違法であることは知っているが、改善する余裕もなく、不安を感じながらも放置していたと思われる。
○真面目な人が多い。
○取次店から直営店の転換に悩んでいる。
○気の弱い人が多い。
3,悪質業者タイプ
このタイプは正真正銘、「不正行為を行って会社を発展させたタイプ」、「不正行為を会社発展の礎としたタイプ」。悪質業者である。商業地・住宅地に店舗兼工場を作ると利益性が高いということは平成5年頃から業界内でひそかに伝わっていたが、そこで石油系溶剤を使用すれば法律違反となる。法律に違反しても、儲かるならそれでいい、と一線を越えた業者がこれに当たる。「集団就職したが半年で田舎に帰った」とか、「組合を無理矢理辞めさせられた」という青年期、 創業時の挫折が、後に屈折した怨恨となって「金が儲かれば人を騙してもいい」という発想になったものと思われる。
○都会よりも田舎に多い。
○業界紙も金で買収する。
○大きい会社なのに、地域社会には全く縁がない。
○地域の第二、第三地銀が積極的に支援していたりする。
隠蔽工作の方法
ここでは「不正行為を会社発展の材料にしていた」業者の建築基準法隠蔽工作の方法を紹介したい。なお、ここで説明するのは不正業者の手法をおおよそ想像で説明しているので、若干は事実と異なる箇所があるかも知れない。
商業地、住宅地で石油系溶剤を使用する工場を故意に建設する場合には、建設業者に、中に石油系溶剤があることを知らせずに建設させ、書類の申請は保健所のみで行う。行政や地域住民から「あれはおかしい」と指摘された場合、非引火性溶剤の書類を提出し、「これを使っている」とする。建築課の職員はクリーニン グ業者のドライクリーニング溶剤のことなど知らないので、これで許可が下りる。このような方法がクリーニング業界にしばらくは横行していた。2009年に 摘発されたクリーニング業界売上第二、第三の業者は、いずれもこの方法で行政を騙し、発展を続けた。
(不正業者によって提出された書類。このような「裏ノウハウ」が業界に横行していた)
発覚の過程
「人の集まる商業地、住宅地に作業場を作れば工場兼店舗となって儲かる」。この事実に気付いたクリーニング業者が、それが法律違反であることを知りつつ、違反行為を繰り返した。そこには、「儲ければそれでいい」という理性、倫理無視の姿勢がうかがわれる。
2008年、クリーニング業者が建てた工場から問題が始まる。場所は近隣商業地域。建物は以前、倉庫として使用されていた場所だった。近隣商業地域に石油系溶剤を使用しているとみられる工場が稼働したことから、同業者が騒ぎ出し、建築指導課に連絡したが、この工場は建築課へ連絡無しに稼働されたことがわかる(つまり、保健所への申請だけで始まっている)。建築指導課は「燃えない溶剤」でやっているとわかったので合法、との答え。これは「隠蔽工作の方法」で記載したとおり、擬装用の仮の溶剤を使用していると行政に申告しているため。
石油系溶剤を搬入している工場は、定期的に石油系溶剤を専門業者がローリー車で搬入する。そこでこの会社と取引のある溶剤販売業者へ聞いてみたが、あそこへは入れていないとのこと。事実、そこへは行っていなかった。洗剤会社、機械会社など関連会社はいずれも口を閉ざした。
しかし、2009年春頃になると、問題の工場の資材搬入口にグレーのポリタンクがいくつも見られるようになった。高解像度のカメラは、そのポリタンクに張り付いていた荷札から、その会社の別の工場からポリタンクが運ばれている証拠をとらえ、石油系溶剤不正使用の揺るがぬ証拠になったもの。新聞記者の追求に対し、溶剤販売業者は「頼まれてやった」と口を割り、マスコミはそれを全国版で報道し、一気にこの会社の組織的な石油系溶剤不正使用が明るみに出た。
(溶剤不正使用発覚の決め手となったポリタンク。ここまでして隠蔽しようとした)
この後すぐに各行政区間はこの業者の工場を立ち入り検査し、20数カ所での大がかりな違反が発覚、当初はこの業者一社のみで終息するようにも思われたが、2009年末、別の会社も全く同様な方法で不正行為をしていたことが報道される。この会社の社長は記者会見で「ウチだけではない、全国の8割、9割の業者が違反だ」と開き直ったため、国土交通省は全国のクリーニング所を調査すると発表。翌年9月には50.2%との発表結果が出た。
全国の約半数以上が違反というだけでも異常事態ではあるが、なお5%は「不明」とのことだし、最初の業者が摘発されてから国土交通省が動き出すまでには約半年間の時間があり、この間に摘発を逃れるため「合法化」した業者、事業所は多い。
業界の対応
2009年7月に不正業者摘発の第一報が出され、新聞各紙が全国版でこの問題を報じると、各クリーニング業者はネットなどにより、この話題で持ちきりになった。しかし、摘発された業者の行為を批判するよりも、自分は大丈夫か、といった保身の姿勢が明確になった。
業界内ではこの問題が広がらなければいい、という対応が続いた。違反かどうかわからない、という業者が大勢だったというのなら別だが(それはそれで問題だが)、多くの場所で「うちは大丈夫か?」という心配が起こったのは、この建築基準法問題が当業界では多くの業者の間において公然のタブーであり、違法とは知りながらも、各業者がそれを内々の秘密として容認していたことを示している。
(厚生労働省によるセミナー)
2009年 11月、厚生労働省が唯一認可する全ク連(全国クリーニング生活衛生同業組合連合会)主催の展示会が大阪で開催。主催者側は「建築基準法対策コーナー」なるブースを設け、この問題に関する資料を掲示。また、厚生労働省の役人も呼んで「建築基準法セミナー」も開催するが、何を聞いても「国土交通省に聞いて下さい」という意味のないもの。場違いな役人の登場は各業者をしらけさせた。
(2009年12月27日の新聞)
この年末に、先に摘発された業者の仲間の業者がまた朝日新聞に摘発され、誌面を飾る(地元福岡では一面記事となったという)事になった翌日、業界団体は各 組合へ文章を配布して対処した。その文面は「マスコミが来ても何も言うな」という業界の隠蔽体質を如実に示すものだった。
悪意性のない違反の場合
建築基準法問題は業界の大半(公式には50.2%)が違反状態で操業していたが、すべての業者が悪意を持って不正に走ったわけではなく、事業者に悪意がなくとも違反となった場合が多い。以下はその事例である。
○行政の無視
建築基準法では新築の際、一度だけ建築課が調査を行うが、それ以降は一度も検査がない。事業主(特に小規模な業者)が家を建て替えたり、増改築して検査はない。こういう状態が何十年も続いたため、各事業者は何も知らず建物を建て替えたりした。
○縦割り行政
前述の通りクリーニング所を管理する保健所は、昭和40年代に流行したドライ溶剤、テトラクロロエチレンに毒性があることを指摘、「パーク(テトラクロロエチレンの略称)をやめて石油にしろ」などと指導したため、これに素直に従った事業主は違反状態となった。
○行政の無知
クリーニング所が都市計画などで移動させられる場合、行政にクリーニング溶剤や用途地域の知識が十分でない場合が多く、石油系溶剤の使用できない商業地や住宅地に移転させられたクリーニング業者も多い。行政が言うのだからと安心して移転し、後で違反と言われた業者は気の毒である。
問題の結末
(クリーニング業界の不安な様子を知らせる業界紙)
(村井元議員)
2010年初頭には国土交通省が全クリーニング所の調査を開始、緊張が高まった。これは同年9月、違反は全体の50.2%と発表されたが、2010年2月14日、国土交通委員会において民主党・村井宗明議員が「クリーニング屋さんがかわいそうだ。違反業者に救済を」と主張し、これによって行政は急激に調査・指導を緩和、違反状態のクリーニング所は現在に至るまで、ほぼ放置されたままの状態となっている。
行政も、「安全対策を施せば営業は可能」とし、各都道府県で徐々に許可は出ているが、各都道府県で指導はまちまちであり、統一した見解は出せないでいる。
また、国土交通委員会で発言した村井議員は、選出された富山県において、地元の大手クリーニング業者が後援会長を務めており、この業者もかなりの違反工場があることから、口利き行為をしたのではという疑いが持たれている。しかし、2012年12月の衆議院選挙で民主党は惨敗、村井議員も落選したことにより、この疑惑は闇に葬られている。
現在違反状態にある業者の中からは「どこかで火災事故が発生し、住民に犠牲者が出て、国土交通省は急激に厳しく調査し、多くの業者が廃業に追い込まれるのではないか」と心配する向きもある。日本の行政は犠牲が出ないと動かないことを指摘する声も多い。
(村井議員の疑惑を報じる雑誌)
他溶剤への変更
(HFC365mfc対応の洗濯機)
建築基準法では引火性溶剤の使用が問題なので、これを非引火性溶剤に変更すれば合法となる。そこで、一応は引火することのないHFC系フロン溶剤(HFC365mfc、業界用語ソルカンドライ)へ変更する業者も数多くいるが、HFC365mfcは温室効果ガスであり、クリーニング業界でHFC系溶剤使用が急増していることを受け、環境団体が声明文を出している。特に、温室効果ガスを「環境にやさしい」などと宣伝する業者には批判がされている。
HFC系溶剤は以前よりわずかながらクリーニング業界で使用されており、それはむしろ、法令を遵守して住宅地、商業地では引火性溶剤を使用しないという考 えのもとに操業する真面目な業者達のものだったが、違法行為を繰り広げて引火性溶剤の不正使用を広範囲に展開し、それがばれると温室効果ガスを使用してク リーニングを行うという不正な大手業者達の行為には内外から非難が集まっている。
火災の懸念
(火災発生、鎮火後のクリーニング工場。すさまじい火力で、全焼は免れない)
建築基準法が引火性溶剤を規制する理由は、火災事故を未然に防ぎ、一般市民を守るためである。上記の通り、クリーニング業界の違反問題に関しては、違反業者があまりにも多すぎることで収集がつかず、ほぼ放置されている状態となっている。現在でも毎年クリーニング所の火災事故が続いており、安全は放置されたといえる。
また、クリーニング所の火災の危険性は以前よりも高まっているとの指摘もある。下記はその理由である。
●業者の高齢化
東京など都会ではまだ零細な個人のクリーニング業者が操業しており、事業主はほとんどが高齢化している。クリーニング業は職人的な要素が大きく、こういう業種は最晩年まで仕事をやめず、引退しない。高齢化した業者が若い頃の運営ができず、火災を引き起こす可能性は強い。
●設備の老朽化
事業主の高齢化とともに、設備も老朽化する。2010年には東京で老朽化したコンデンサから発火し、二人が焼死する事故が起きている。火元がどこであっても、ドライ機に延焼すれば爆発が起こり、建物はあっという間に全焼する。
●クリーニング作業の高密度化
大手業者は取引先や顧客から「より安く、より早く」と厳しい要求をされる。価格は大変安く押さえられ、「11時お預かり、5時お渡し」のように納期は即日仕上がりが常識化している。このため従業員が仕事に追われ、危険な作業を伴うにもかかわらず、火災対策を怠る心配がある。
●ほぼ365日稼働
近年、クリーニング工場の多くは、早く欲しいという顧客ニーズに応えるため、ほぼ毎日稼働している。休みなく工場が稼働すれば、従業員は交代制となり、工場長や管理責任者の休日もあり、十分な安全管理ができない可能性がある。
●外国人作業員の増加
特に都会ではクリーニング工場で働く従業員に外国人が多い。これは、クリーニング業界が外国人研修生の受け入れを積極的に実施し、働かせているからである。日本語が十分に話せない外国人はコミュニケーションが不足し、火災を引き起こす可能性もある。2010年秋にはやはり外国人作業員による火災事故が発生している。
●モラルの低さ
2009年 にクリーニング業界の建築基準法問題が発覚し、半分以上のクリーニング所が違反であることが判明するという異常事態にもかかわらず、業界から反省の弁が出たことは一度もない。法律違反や行政へのごまかしが当たり前というこの業種においては、真摯に反省し、防火対策に努力する姿勢は全く見られない。
(クリーニング店の火災を報じる業界紙)