建築基準法問題顛末記⑤ 摘発され行政指導を受けたのは1社だけ
2009年7月11日、朝日新聞は最大手クリーニング業者の建築基準法違反を社会面トップに載せた。異例の大きな扱いには仰天したが、焦ったのはこの会社だけではなかった。
このニュースはあっという間に業界中に伝わった。その理由は、建築基準法違反はクリーニング業界最大のタブーだったからである。ネットには、「人ごとではないです・・・」などという書き込みが目立った。
11日は土曜日で、二日後の13日月曜、各県の建築指導課は一斉にこの会社の工場を立入検査した。この時点で23箇所の工場が違反と判明し、行政は同社に即改善を求め、実施された。
建築基準法では、全国の土地をおおざっぱに住宅地、商業地、工業地の三つに分け(それぞれがさらに細分化されるのだが)、ドライクリーニングに使用される引火性の石油系溶剤の使用は工業地のみとしている。摘発された業者は、商業地や住宅地に工場を建て、行政に虚偽申請して発展展開していた。しかしこれは、この業者だけの問題ではなかった。
クリーニング業界では、1990年頃からユニットショップとか、パッケージプラントという手法が流行した。人がたくさん集まる住宅地、商業地に工場兼店舗を開店すると、非常に収益性が高いという。これは業界のコンサルタントのような人物が普及させていったが、住宅地、商業地では石油系溶剤は使用できない。最初は合法なフロン系溶剤などをしようしていたが、価格がずっと安い石油系溶剤の方が収益性が高いので、一人一人と違法行為に手を染め、ついには業界標準のようになってしまったのである。
ともかくも業界は大慌て、同年10月に大阪で行われた全ク連主催の展示会では「建築基準法セミナー」なども開催され、厚生労働省の役人が的外れな講演を行っていた。何を聞いても「それは国土交通省に聞いて下さい」と繰り返す厚生労働省役人の姿に呆れた。
そして同年12月、またも別の業界大手が摘発された。大手二社の摘発により、国土交通省は動き出し、翌年全国の全クリーニング所を調査することになった。9月11日、国土交通省は全体の50.2%が違反であると発表した。
ところが、このとき違法と判定された15211カ所ものクリーニング所は、行政から全く処罰されなかった。すなわち、この問題では最初の一社だけ改善指導され、後は放置されたのである。
違法と判断されたクリーニング所のうち、約3000カ所は自主的に改善した。しかし違法業者の大部分、10000軒以上のクリーニング所は高齢化などの理由で廃業した一部を除き、今も平気で違法操業を継続している。結局1社だけ厳しく、後はみんな許されたのである。
最初に摘発された業者の肩を持つわけではないが、これではあまりに不平等ではないか。法の前にはすべての人々は平等だと思うが、業界の半分以上が悪事に手を染めていたのに、最初の会社だけ全部改善させて他は何もなしというのはおかしい。政治家と近しいとか、行政の都合で不平等が起こるのなら、日本はとても先進国であるとはいえない。
考えられるのは、全国クリーニング業政治連盟の存在である。選挙が近づくと、全ク連が運営している全国クリーニング業政治連盟は旧統一教会と同じように与党政治家に推薦状を送る。全ク連からは当選させたい政治家がいると、全国の組合員にその人に投票するようDMが送られてくる。このように、厚生労働省認可団体と政治の世界は密接なつながりがある。各都道府県の県庁へ赴き、建築指導課や都市計画課を訪ね、具体的に違反しているクリーニング所を指摘しても、彼らは動かない。いろいろ理由を付けてごまかされるのがオチだ。これは、裏から政治の力が働いているとしか思えない。
実際に配られている推薦状
法律違反や反社会的行為を犯していながら政治とつながっているため許されるというなら、クリーニング業界は旧統一教会などとなにも変わらない。最近の内閣支持率でわかるとおり今や政治の世界は腐敗しきっている。こういう情勢は、不正なクリーニング業者らの大きなバックボーンとなっている。