建築基準法問題への提言 (悪質業者と一緒にするな!)

建築基準法問題への提言  (不正業者と通常業者は分けて考えるべきである)

悪質業者の摘発

 昨年よりクリーニング業者の建築基準法違反による摘発があり、このことが大きな問題となっている。新聞報道された二社はいずれも法律違反と知って商業地や住宅地にクリーニング工場を建て、大きな利益を得ていたものである。

 統計によれば、日本のクリーニング業者の94%が石油系溶剤を使用し ているが、この溶剤には引火性があり、商業地や住宅地での使用は許されていない。法治国家である日本で、法を犯してどんどん工場を展開し、業界を席巻して いったことは全く不法であり、許されるものではない。

 しかし、ここで思わぬ展開になってきた。国土交通省が、全国3万8000軒に及ぶクリーニング所(取次店を除く)を2月より一斉に査察し、法に叶っているかどうか調査するというのである。

 実は、かなりの数で法律に見合わないクリーニング所があるらしい。これまで何の指摘もないどころか、保健所や消防署が毎年のように検査に訪れていた所でさえ、違反になる場合があるという。その様なことから、この建築基準法違反事件は、業界を揺るがす大きな問題に発展している。 摘発された業者からも、「業界の85%は違反している」という言葉が発せられている。

 

悪質業者と一般業者は違う

 ここではっきりさせておきたいのは、違法に展開した悪質業者と、何十年も普通に営業していて問題に巻き込まれた一般業者とでは、問題の質が全く違うということである。

 クリーニング業界は昭和40年代頃、高度成長期の時期に需要が増え、高い生産性を生み出す機械が開発されたことにより、多くの人々が業界入りした。俗に「大手」と呼ばれる人たちは創業がこの時期に集中している。この頃のドライクリーニングは、特に大手においてパークロールエチレン(パーク)が主流であり、洗浄力のあるパークは多くの業者に取り入れられた。このパークは不燃性であり、法的には工業地以外でも使用が可能である。そのためこの時代に建てられたクリーニング工場が、必ずしも工業地帯というわけではなかったのである。

 その後、パークには毒性があり、いろいろと規制が加えられるようになった上、日本人の生活水準が向上し、衣料品もいろいろな素材が開発されたため、パークでは対応できない衣料品がたくさん登場した。そのため各業者はパークを徐々に石油系に換えていったのである。

 こういうドライ機の転換は、おそらく昭和の時代には頻繁に起こっていたに違いない。各業者にはそれが違法であるという意識などなく、直接の管轄である保健所にもそういう知識はなかった。「パークは毒性があるから石油系にしろ」などと行政指導したところすらあったのだ。法的には違法なのだが、やっている業者も、管轄する行政も、それを知らずに何十年間も稼働されていたのであ る。

 悪質な業者の手法は、これとは全く違う。商業地や住宅地に工場を建設する際、お抱え大工に頼んで素早く作らせ、保健所に申請するだけでさっさと開業してしまう。使用しているのは勿論石油系である。その上で、もし地域住民や行政から指摘があった場合には、「これを使っている」と現実には使用しない溶剤を申請し、検査ではその一斗缶を数個置いてごまかすのである。勿論、これは立派な詐欺である。

 この様な手法は、今回糾弾された両方の企業から発覚したという。彼等は「認識不足だった」と、一般の業者と同じような悪意性のなさを主張しているが、もし、本当に「認識不足」だけだったら、新聞は全国紙で書いたりはしない。新聞記者はそれぞれ一部地域で行政に虚偽報告をしていた証拠をとらえている。二つの業者が悪質だったから、全国版のニュースになったのである。

 

問題の背景

 この様な悪質な業者が登場する背景には、どのような事情があったのだろうか?

 まずはクリーニング業界の市場が、平成の世になって大きく変化したことだろう。それまでの取次店方式が交代し、直営店が主体となった。立地のいい場所に工場を作れば、併設する店舗の売上がかなり見込まれる。さらに、テナントで入店するスーパーからも近い。スーパーは価格を安く、納期を早くと要求してくるが、街の中ならそれも可能である。取引先の要求に応えるため、違法に手を染めた、という点では、この問題は食品偽装疑惑の構造と全く同じである。

 また、俗に「縦割り行政」と呼ばれる行政の煩雑さも、この問題を広げてしまった大きな原因である。「パークをやめて石油にしろ」などと言っていた行政が、全く責任がないとは思えない。

 さらには、クリーニング業界のまとまりのなさも、悪質業者が誕生する背景にあったと思う。全ク連はこの問題をしばらく放置し、見て見ぬふりをした。悪質な業者が不正行為をしても、業界内に自浄作用が全くなかったのである。

要するに、クリーニング業界は、悪質な業者が跋扈する最良の土壌であったのだ。

 

一般業者と悪質業者のすみ分けを

 このようなことから、悪質な業者とそうでない業者は分けて考えるべきだと思う。結果的に法に合わないことは同じだとしても、何十年もの間に周囲の状況が大きく変化したために起こった変更と、初めから意図的に嘘を付いたというのでは、あまりにも内容が違うからである。

 具体的な実例を挙げてみると、まず、故意に工場を建てた業者は少なくとも10~15年前当たりからスタートしている。商業地に工場を建設し、直営を4,5軒加える「パッケージプラント」なる方法が確立されたのもこの頃。当時はスーパーなど小売店が勢いよく出店を開始した時期であり、この波に乗った業者の一部が法律を犯したのである。そう考えれば、平成、8年以降建設された 工場は要チェックだ。

 また、次々と企業買収を繰り返した業者においては、どの様な場合でも、そのままの形で工場を引き継ぐことはあり得ない。機械の入れ替えが必ず行われており、この様な際に正式な申請がないのはおかしい。「知らなかった」な どと大の大人がいうのはおかしい。石油系溶剤を入れる時点で違法とわかって入れているはずである。

 さらに、今回の問題に関しては、行政への偽装が全国版で報道されたことで、同様な方法で進出した工場がかなりの数で隠蔽工作を行っている。組織ぐるみであれば悪質であり、昨年7月以降、あわてて閉鎖された工場は、不正な手段で出店した可能性が高い。現在は工場が閉鎖されていても、何年も不正な利益を得ていたのだから、糾弾されるのは当然である。行政にはその記録が残ってい るはずだ。

 こういう一連の不正とは別に、昭和40年、50年頃に建てられた工場は何度も行政の立ち入りを受けているはずである。行政が何度も訪れて、確認印をもらっていれば、どんな業者でも大丈夫だと思うのは当然である。また、いくら縦割り行政だからといって、保健所、消防署は一切関係ありませんということはないだろう。こういう工場を行政を騙して進出した工場と同一視できるとは思 えない。

 今回の問題に関して、家内工業の個人店を心配する向きも多いが、こういう人たちは全くこれに該当する。「不正をして利益を得た」わけではないので、悪質業者と同様に裁かれるのはいかがなものだろうか?

 行政から何度も査察を受け、普通に営業してきた業者と、行政を欺いて、法を破って不正な利益を得てきた業者を同一視するのは明らかに納得がいかない。行政にも、その点は理解していただきたい。

 

建築基準法問題は氷山の一角である

 そして、建築基準法問題は、悪質業者の所業においては氷山の一角であることを申し上げておきたい。摘発された業者の言動を聞く限り、「85%は違反だ」、「行政に問題がある」など、この期に及んでも悪いと思っていない印象である。不本意ながら、クリーニングはしばしばマスコミにおいて、その不正ぶり、手抜きぶりを糾弾されており、世間一般に必ずしもいい印象を持たれていないと思われるが、それはこういった不正な業者によって引き起こされている。こういった問題が、今後も明らかにされ、白日の下にさらされていくことになるだろう。苦しい時代といえるだろうが、業界浄化のためには避けられない問題でもある。

 

不正に進出した店舗を一緒に扱うな!