フロン対策シンポジウムに参加して
2月1日、日比谷で「フロン対策シンポジウム」という討論会が行われた。主催は環境団体・気候ネットワーク。私はクリーニング業界におけるフロン溶剤使用についてスピーチすることを依頼されていた。身に余る光栄である。
目的は温暖化阻止
会場は約70席ほどの小ホールだが満員、主催の気候ネットワークは認定NPO法人であり、地球環境の保護、とりわけ地球温暖化阻止を目的とした団体である。
午後1時に始まり、この分野の専門家達が10分程度ずつスピーチを行った。いずれも大学教授、経済産業省や環境省の官僚、上場企業の環境部門担当者など名だたる方々がかなりの資料を持ち込んで発表し、それぞれが豊富な情報をこれでもかと話すので、時間はかなり押していた。
内容はやはりフロンガスによる地球温暖化が中心であり、スーパー、コンビニなど小売業で使用される冷蔵庫の冷媒として使用されるフロンガスの抑制が論じられた。かつてはオゾン層を破壊することで使用が禁止されたフロンガスだったが、現在ではそれがオゾン層には影響を与えない「HFC類」と呼ばれる代替フロンガスに変更され、オゾン層破壊進行は食い止めたものの、HFCは地球温暖化につながる温室効果があり、世界的な自粛、規制が行われつつある。発言者達はそれぞれこの現状や環境への影響、そして解決策などを論じた。ちなみにクリーニング業者が「ソルカンドライ」と呼ぶドライクリーニング溶剤は正式にはHFC365mfc(あるいは1.1.1.3.3.ペンタフルオロブタン)であり、この場で焦点となっているHFC類に分類される。
2020年問題
フロン溶剤といえばオゾン層を破壊物質であり、それ以外の環境負荷は考えていない人が多いが、オゾン層を破壊しない代替物質は温室効果ガスである場合が多く、それぞれが相反する効果を持つという。こういった知識は私を含め一般にはなく、大変参考になった。
話の中で、HFCの規制は2020年に行われる可能性が高いことが指摘された。モントリオール議定書に続く京都議定書ではこのHFC類が初めて話題に上り、将来的な規制の方向性が示唆されている。これを称して「2020年問題」といわれていた。会場にはスーパーなど小売業関係者も多く集まり、各店舗で使用する冷媒について、2020年に規制が始まるのでは、HFCを使用することが二重投資につながるとして警戒する向きも多かった。発言者の中には代替する製品も紹介され、環境問題が最も進んだヨーロッパから参加し、代替製品を説明する外国人発言者もいた。HFCが2020年に規制されるならば、当然当業界への影響、対策も考慮しなければならない。参加者の目は必死だった。
クリーニング業界では1980年代に液化フロンガス溶剤が非常に流行していた。フロン溶剤の一番の長所は、沸点が40度前後と低く、衣料品に熱をかけなくてもいいこと。石油系溶剤のように燃えたり、塩素系溶剤のように人体に害があったりしないので、一時は家庭にドライクリーニング機が普及するのでは、ともいわれた。しかし、オゾン層破壊の問題が発覚し、急速に収束した。現在クリーニング業界で使用されているのは、このオゾン層破壊はないものの、紛れもない温室効果ガスであることが問題視されている。
クリーニング代表
第二部の一人目として私の番が来た。時間が10分しかないので話を要約し、クリーニング業界でのHFC365mfc使用は多くが2009年に発生した建築基準法問題を起因としており、違反する引火性溶剤の代替としてHFC365mfcが急増したのだと説明した。パワーポイントで資料を説明しながら話したが、「環境にやさしい」と温室効果ガスを宣伝する事業者の広告には会場から失笑が漏れた。環境団体へのクリーニング業界からの登場は、おそらく初めてだったのではないだろうか?全般に話が冷蔵庫冷媒に行きがちなので、 初めて登場したクリーニングの話は新鮮であり、多少は関心を持たれたと思う。
安直なクリーニング業界
私の説明の通り、クリーニング業界では、建築基準法違反問題によってこのHFC系溶剤の使用が急速に増えた。しかし、当業界ではこの業界を「ソルカンドライ」なるオリジナルの名前を付け、「環境にやさしい」などと宣伝している。HFC系溶剤はオゾン層の破壊はないが、単にオゾン層の破壊がないことで、「だから環境にやさしい」という単純論法が成立している。安直で無知な発想には呆れるばかりだし、そういう宣伝をしているクリーニング業者や関連業者はいい加減にして欲しいと思う。(ネットで「ソルカンドライ」で検索すると、「環境にやさしい」と言いまくるクリーニング業界の現状がわかります)しかし、業界内では「実は温室効果ガスだ」などということは誰からも語られないし、「環境にいい」と本気で信じているような人までいる。
悪質なクリーニング業者達が不正なノウハウを共有し、全国に違法な工場を建設していたときも、これは業界のタブーとなっていて、業界紙は一切報じることはなかった。今回も温室効果ガスである正体についても報じられない。こんな閉じられた業界ではどうしようもない。他の業界ではいかにして代替に変更するかを論じているのに、違反を重ねて成長したクリーニング業者らが中心となり、温室効果ガスを「環境にやさしい」などといっているのでは話にならない。ここだけ考えると、クリーニング業界は反社会的な集団の様である。
先見性ある発想を
セミナーは全部で11人の人が発言し、3時間半に渡る凝縮した会であったが、各会の関 係者がそれぞれの専門的知識を披露し、非常に勉強になるとともに、ビジネス優先ではなく、地球環境をともに守ろうという善意の精神は感動的でもあった。最後には「ストップ・フロン全国連絡会」の代表者から、「地球環境を守るためには、すべての関係者が力を結集し、オールジャパンでやらないといけない」という力強い宣言があった。
私は他業種の方々の、将来的な規制を見越し、時代に先んじて環境問題を考えようという 先見性に感心した。「いつまでなら使える」、「とりあえず大丈夫だろう」という後ろ向きの姿勢ではなく、これからを考えて先に行動を起こすというのがなによりも大切ではないか。環境問題は当業界でも重要な課題だが、これからの時代を見据え、先見性ある発想をもって臨んでいかなければならないと感じた。