つげ義春
中学一年の頃、つげ義春の特集を図書館で見つけ、初めて読んだ。
タッチがまるで水木しげるだったので最初は勘違いするほどであったが、お化けは登場しないし、やたら暗いので大変印象に残った。また中学一年としてはずいぶんと色っぽい漫画だな、とも感じた。
当時はやはり「ねじ式」、「ゲンセンカン主人」のインパクトが強烈で、こういう世界もあるのか、と友人にも見せて廻ったが、趣味になるほどでもなかった。
大学生活の後半、書店で見つけた「つげ義春日記」という文庫本が、再びつげ義春熱に火 を付けるきっかけとなった。当時私は温泉巡りに興味を持ち始めており、アバンギャルドな漫画家という印象しかなかったつげ義春は、実は紀行文なども書いて おり、付随するイラストはとてつもなく引きつけられる魅力的なものであった。漫画は二つしかなく、残りは日記、紀行文で占められていたが、見た夢をそのま ま記載した「夢日記」も面白いというか、自分の世界に近い、共感する内容であった。その後、つげ作品を買いまくり、初期作品の一部を除いてほとんど揃えて いる。つげ作品は漫画も文章も面白く、それについて書かれた評論分もまた面白い。
また、自分の故郷はつげ義春の作品に多く登場する舞台とも隣接していることも、この興 味を広げる理由となった。「二股渓谷」、「もっきり屋の少女」、「会津の釣り宿」などは車で1~2時間の所である。また、文中に登場する母畑温泉、湯野上 温泉、木賊温泉、早戸温泉なども近い。
極めつけは岩瀬湯本温泉である。「来て良かった。今までで最高の所だ。」と書かれたこの温泉は、子供の頃から父親に連れられて何度も訪れた所である。つげ作品は、新鮮な衝撃と、故郷へ帰っていくような郷愁を感じさせた。
こういった世界を追い求め、80年代は温泉旅行に行くことが多い静かな人生を過ごし た。84年からは青森県に引っ越したため、日曜となればいつもつげ義春の文章に登場する地域、温泉に出かけていった。恐山、鰺ヶ沢なども印象深い。87年 からは会津に住み、やはりゆかりの場所に行った。
つげ作品は、読んでいるうちに、自然に自分がその世界に入っていってしまう感覚がある。作品の中の季節がありありとわかる。登場人物の心情も、実に良く理解できる。絵と文が絶妙のバランスを持ち、見る者を深く共感させるのである。
本人の体調などもあり、新作が登場しないのは大変残念であるが、その作品は何度読み返しても興味深く、面白い。