ボーズ・スピーカー
私が檀家になっている寺は祖父の代から大変お世話になっているところで、子供の頃には勝手に鐘を突いたことも覚えている。
祖父は本殿の香炉を、父は本殿天井の金拭きをしたということを住職から何回か聞かされ たので、私もそろそろ何か寄贈しようと考えていた。こちらのお寺ではお経をマイクを通し、スピーカーから流しているが(本堂の中と外部用がそれぞれ二個ず つ付いている)、それが30年前のものということで、スピーカーを寄贈しようと考えた。
まずは現地視察でスピーカーを見たが、30年頃前に流行していた通常のステレオスピーカーを使用しており、30センチ・ウーファーの下部にはカビが生えていた。これじゃあまずいと思った。スピーカー寄贈はするべきだったのだろう。
相手はお寺、お寺は坊主―――ボーズ、という安直な発想の元に、私はボーズ株式会社に連絡した。
聞いてみたら、やはり私のように、お寺に寄贈するならボーズ・・・という考えを持つ方は全国に多いらしく、そういう問い合わせが結構あるそうだ。世の中には私のような思考回路を持つ人がいるのかと思ってちょっと嬉しかった。
エンジニアを呼び、備え付ける準備が始まった。本堂の両側にPAシステムのようなス ピーカーが備え付けられ、外部には全天候型のものが取り付けられた。住職はマイクも交換したい希望で、なぜかシュアーのマイクが搬入された。シュアーのマ イクにボーズのPAシステム・・・これじゃあまるでロック・コンサートである。
お寺の中にボーズのPAシステムという妙な寄贈は遂に完成した。スピーカーには「寄贈・鈴木和幸」の金文字が、寄贈者である私にこれみよがしの妖しげな光を放って見えた。
そして、私が出席したこの寄贈スピーカーが使用される最初は・・・なんとこのお寺の住職式だった・・・合掌。ちょっとショックだった。