クリーニングは新書でどのように紹介されているか?

新書でクリーニングは

どのように紹介されているか?

 

 クリーニング業界は、需要ダウンが大きな問題となっているが、出版界も同様で、「出版不況」と呼ばれている。そんな中、各社から販売される新書だけは好調であるという。

 私は新書が好きで、毎月5~10冊は読んでいる。架空の物語である小説とは違い、新書は現実を語る最も身近な書籍であると思う。この新書の中で、我がクリーニングはどのように語られているのだろうか?今回は最近の新書の中に登場するクリーニングを紹介していきたい。

 

気にするな

新潮新書 弘兼憲史著

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 作者は「課長・島耕作」の著者。タイトルに引かれて買ったので、最初は知らなかった。

 内容は、若いうちから努力を重ね、現在でも大変多忙な作者が、経験に基づく人生観を語り、人生における様々な障害をそれこそ「気にするな」と諭すものである。数々のヒット作を持つ漫画家の文章だけに説得力もあり、特に若い人に読んで欲しい書籍である。

 この方は、20数年間で原稿を上げられなかったことがたった一回だけ ある。それは、気晴らしにキャッチボールをしていたとき、クリーニング店の煙突に寄りかかり、火傷をして指がくっついてしまったときだという。大変な怪我 だが、それは街中にあるクリーニング店が原因だったのだ。

 乾燥機の排気口か、小型ボイラーの煙突だったのかわからないが、改めてクリーニングが危険と隣り合わせの職業であることを考えさせられる。

 

お客様!そういう理屈は通りません

ベスト新書 吉野秀著

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 テレビでコメンテーターなどをしている著者が、いろいろな職業でのクレーム処理について語る書。一時期、クレーム関連の書籍がたくさん出版されたことがあったが、これもそういった一冊。この中で、クリーニングに関するものも紹介されている。

 あるクリーニング店でコートを預かり、仕上げて返したら、ボタンに傷が付いてきたとクレームがあった。しかしこれは大理石で出来たボタンで、元から傷のような模様があったというのである。

 この業者は衣料品メーカーに確認し、そういう性格のボタンであること を聞き、さらにはボタンメーカーにまで連絡し、顧客を納得させたという。クリーニングのクレーム処理としてはかなり基本的で、ほとんど入門レベルの問題 だ。また、他のクレーム処理と比較し、クリーニングの場合には平身低頭が効果的とする、やや見下した著者の見解が表されている。

 著名な人物のクレーム解決指南書といった趣だが、内容が薄っぺらである。出版不況で、有名人が書けばそれなりの出版数も見込まれるというのだろう。そういう安直な発想は、新書ファンとして嬉しいものではない。

 

暴力相談

中公新書ラクレ  狩集紘一著

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 警視庁で長く反社会的勢力と闘ってきた著者による、暴力団対策マス ター本。具体的に、暴力団とどのように対峙するか、どのように被害を防ぐかを語っている。巻末には暴力団対策法の解説や関係法令を記載し、連絡先も一覧と するなどかなりリアル。常連客にその筋の人物がいたり、暴力団が嫌な方なら持っていたい一冊である。

 反社会的勢力はしばしば「悪質クレーマー」となっていろいろな業種にイチャモンを付ける。業種が10種ほど紹介されているが、その中にクリーニング業も入っている。

 クレームの内容については、「シミが落ちていない」、「ボタン穴が広 くなった」、「クリーニングで毛玉になった」、「衣類の色が変わった」、「アイロン禁止の生地なのに、アイロンをかけた」などが紹介され、要求内容には、 「誠意を見せろ(現金、慰謝料を要求)」、「今後クリーニング代をただにしろ」、「高価な商品だ。新品を弁償しろ」、「詫び状を書け」、「謝罪文を書 け」、「オレに恥をかかせた上代金を取るのか」とある。

 「対応のポイント」には、

  • 預かり時の状況をチェック票などから確認します。
  • クリーニングのやり直しを伝えます。
  • 過失があった場合は、誠意をもって、ただし、社会的に妥当な範囲で対応します。状況によっては弁護士に相談します。
  • 詫び状は書いてはいけません。
  • 過度な不当要求であると判断した際は、警察に相談します。

とある。なんとなく聞いたことのある言葉が並んでいて、やはりこういう問題はクリーニング業者共通の悩みであるのかも知れない。内容的には、大手というよりも、むしろ零細業者が被害を被っている様にも思え、そういう業者達のためにも、全ク連などで取り上げて欲しい書籍だ。

 

「天下り」とは何か

講談社現代新書 中野雅至著

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 作者は元旧労働省、厚生労働省などを経て現在は大学院准教授。安倍内閣では公務員制度改革に深く関わっている。昨年の末頃、民主党が政権を奪取した直後に出版され、「天下り根絶」を政策に掲げた民主党の選挙圧勝を受けての書籍であることは間違いがない。

 タイトル通り、日本で独特に発達した「天下り」というシステムを非常 に詳細に説明している。特に作者の豊富な知識から、海外の公務員制度と比較して論じているところが興味深い。肝心のクリーニングは、書籍の中ほど、第5章 天下りの弊害、「政官業の癒着」のところに登場、大変興味深い文章なので抜粋する。

 

 私は厚労省時代に生活衛生関係営業という業界を担当したことがありま す。(中略)具体的には理美容、銭湯、旅館、クリーニング、飲食業業界などが該当します。これらの業界は小規模零細企業が大半です。しかも、数が多いので どうしても競争が激しくなり、潰れることも多々あります。そんなこともあってライバル同士が競争するのを制限するような規制(過当競争防止策)がたくさん ありました。

 今では廃止されているものもありますが、理美容店の値段や休日が全店共通だったのを覚えている方も多いと思います。あるいは銭湯に距離制限というものがあって、一定の距離を離して作らなければ行けないことになっています。

 (中略)いずれにせよ、国内サービス業の中には、このように競争によ るパイの縮小を恐れて役所に規制や保護を訴えるところがあります。役所はそんな業界の要請に応えて経済的規制を作り、その見返りに業界団体や関連企業への 天下りを求めます(実際、生活衛生関係営業の例では、いまだに厚労省から多くの役人が業界団体に天下っています)。そして、政治家は規制緩和の圧力から業 界を保護しようと役所に働きかけ、その見返りに政治資金を得ます。

 政治家は政治資金を、官僚は天下り先を、業界は規制による経済的利益をそれぞれ得るわけです。だから政官業癒着と呼ばれます。

 

 天下りと生活衛生業の関係をここまで詳しく表現した著作は見当たらず、先日話題となった事業仕分けに関連するものであり、注目すべきものである。書籍全体の印象として、天下りを一方的に批判する文面ではないが、この部分はかなり批判的に述べられていると感じる。

 しかし、クリーニングに関する限り、筆者の指摘は間違いである。クリーニングは行政の癒着によって統制が取れなくなり、むしろやりたい放題の無法地帯となっているではないか。行政の癒着には何一つメリットがなく、天下りは無意味である。

 

 新書は小説のようなストーリーはないが、社会生活で興味深いことを詳細に教える手軽な書物である。何かのおりに読まれるのも一興だろう。