怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか

怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか

黒川伊保子著 新潮新書

 

 帯に書かれた、「ゴジラ、ガメラ、キングギドラ・・・・・・洗剤脳に語りかける音の正体とは」という文句が購買意欲を誘う一冊。しかし・・・。

 作者の黒川氏は(株)感性リサーチ代表取締役、ことばの感性を研究されている方ということで、本の内容はことばのサブリミナル効果が与える影響について書かれている。ブランド名もまたその名によって消費者を煽っているのである、という。

 曰く、「企業の現場で知られる、ことばの経験則がある。これらもまた、ことばの音のサブリミナル効果が大衆を動かす現象である。ことばの音の響きには、潜在的に人を動かす力がある」ということで、非常に興味深い内容である。

 しかしながら、何でこの本の題名が「怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか」なのだろうか?こんなタイトルだと、中身は怪獣の名前について学識者が延々と語るものだと想像する。しかし、そんなことは全然ない。少しくらいそういう頁があってもいいと思うが、みごとなくらい、ない。ほとんど怪獣など登場していないのだ。

ハッキリ言わしてもらうと、題名と内容が全く一致していない。おそらくこの本の作者は、大変博識な方とお見受けするが、「こっちの世界」のことはきっと知らないだろう。きっと、ゴジラとバラゴンの区別も付かないだろう。題名と中身がこんなに離れている本を始めて読んだ、という気がする。

 この本が出版されたのは、あの「バカの壁」の一年後・・・。折から始まった出版不況の中で、本来は一部インテリ層に評価されながらも、出版件数の割にはマイナーな印象のあった「新書」が大ヒットした時代であった。インテリが嫌う「大衆化」、「衆愚化」の波が、背に腹は替えられぬと新書の世界にもやってきた時代である。

 折しも、同じ新潮新書から出た書籍・・・「バカの壁」の嵐が、こういう珍妙なタイトルを決定させた要因になっているのではないだろうか?商業的にはタイトルも重要、という考えが新書にもおよび、そういう書籍を逃してはならないという私のような人間の前に立ちはだかったのである。サブカルチャー的書物が新書の世界に及んできた時期は、まさにこのときだった。

 ある意味、本当の「バカの壁」だったとも思える。タイトルを見て購入した私は本物の「バカの壁」にぶち当たった!