101歳犬塚氏、本を出版!!
「映画は陽炎の如く」
若き日の円谷英二氏といっしょに仕事をし、無声映画からトーキーに変化する映画史のなかで活躍され、後には「座頭市」などの脚本家として知られる犬塚稔さんの所へ5年ぶりに訪問した。
犬塚さんとは平成9年にお会いし、円谷英二氏の無声映画時代の活躍をお聞きして大変参考になったが(別項を参照)、今回そちら方面に行く用事があって、久しぶりにお会いすることになった。
犬塚さんはもう101歳!しかし、シャンとしており立派である。奥様と二人暮らしでご健在であるが、訪問したときにはあまり長居せず帰ってきた。
その際、大変驚いたことなのだが、犬塚氏は今年1月に本を出版したという事だった。私はそれを知らずにうかがったのだが、一冊著者のサイン入りでいただいてきた。
「映画は陽炎の如く」草思社(2200円)
この本は犬塚氏の映画人生に起こった様々な出来事を回想するように展開されていく。しかし、単に懐かしがるというものではなく、むしろ現実を生々しく伝えるという印象が強い。衣笠貞之助監督の世渡りの真相、長谷川和夫映画会社移籍にまつわる刃傷沙汰、勝新太郎との脚本料不払いに関わる裁判などが書かれているが、どれもすさまじく、101歳 という年齢においてもなお現実と対峙する犬塚氏の姿勢を感じる。
この本によれば、円谷英二も関わった「狂った一頁」(1926年)においては、犬塚氏の全面協力がありながら、 川端康成を脚本家として発表したとのことである。衣笠監督の事実を暴いているというスタイルだが、カンヌ映画祭の受賞者やノーベル文学賞受賞者までも糾弾 する犬塚氏の文体は驚くばかりである。
この書物のカバー裏側には時代劇を監督する犬塚関東の隣に、カメラを持って撮影するカメラマン時代の円谷英二の写真が使用されている。文体の中には円谷英二はあまり登場することなく、「稚児の剣法」の部分で紹介されている通りである。辛口の犬塚氏だが、借金を何度も円谷氏に頼まれた経験(当時の円谷氏は自費で映画研究を行っていたためいつも貧乏していた)があっても、円谷氏に対しては非常に寛大の様だ。
文体の中に、現在の事を表現する部分がある。「人生はなんと短いものか。」という事だが、101歳の方に人生は短いと言われると、私らはただ唖然とするばかりだ。