世界一のお客様を大切にしよう

世界一のお客様を大切にしよう

(消費生活センターを訪ねて)

 

消費生活センターを訪問

 先日、ふとしたきっかけが原因で、地元の消費生活センターを訪ねた。全く違う理由で接点があったのだが、私がクリーニング業者であることが知れた時点で、話がクリーニングのことになり、それでは会ってみましょうということになったのである。

 消費生活センターといえば、私たちにとって決して嬉しい場所ではない。普通はクレームが顧客から寄せられ、それに対応する場所である。「消費生活センター」というからには消費者寄りであり、こちらに有利な話が出るとは思えない。そういう施設がこちらと話をしたいというのは、よほどの事情があるのだろう。

 約束の時間に消費生活センターを訪問すると、相談室に通された。そこはバーのようにカウンターで仕切られた部屋であり、普段はここで消費者からの相談を受けるのだろう。隣の部屋はまさにその「相談」が行われており、息子が借金をし、ヤミ金から追いかけられているという切実な話が聞こえてきた。やがて、消費生活センターの主幹と、消費者からの窓口になっている担当者が現れ、 懇談が始まった。

 彼らの話によると、消費生活センターに寄せられる問題の中で、クリーニングに関するものが一番解決が難しいという。その理由は、消費者から疑問があっても、センターの職員がそれを相談する場所や人物が存在しないからだという。結果的に、センターの職員自体にもクリーニングに関する知識がないことになる。

 知識や情報を得ようとしても、そういった書籍があるわけではない。また、「唯一の法定認可団体」であるクリーニング生活衛生同業組合に連絡しても、「組合員でないと、相談できない」といわれるのである。およそ地方においては、組合員のシェアは極端に低い。ということは、消費生活センターに寄せられる質問の大部分は答えられないということになってしまう。

 そこで私はクリーニング業界の現状につき、全ク連は法定認可団体であっても、ほとんどシェアがなく、そのためにいろいろな問題が発生していることを説明した。そういった情報は消費生活センターにとっても伝わっておらず、彼らも驚いていた。

 

困惑する消費生活センター

 公共の施設であり、消費者とのパイプをつなぐのに重要な役目を果たす消費生活センターが、クリーニングに関する知識がほとんどないのであれば、消費者がクリーニングに不信を募らせるのは当然である。そしてその受け皿である消費生活センターが困惑するのも当然だ。今まで消費生活センターといえば、クリーニングでよく起こる消費者からの苦情に対し、消費者よりの姿勢で我々に迫ることにより、あまり良い感情を持っていなかったのだが、この会談ではむしろ彼らも業界矛盾の犠牲者の様であり、気の毒でもあった。

 クリーニングの苦情は解決が難しいという。理不尽なクレーマーが多い のは百も承知だが、クリーニング業者の側も決して紳士的な人物ばかりではなく、消費者を怒鳴りつけたり、なかなか非を認めない業者もいるらしい。特にク リーニングの場合は、「穴があった、なかった」とか、「言った、言わない」など確認ミスに由来する問題が多い。これだと双方が自分の立場を主張し、結論を 出すのは難しい。センター職員の立場はあくまで「相談員」であって、裁判所のように最終的な判断をすることはできない。このようなわけで、センター職員も 大変なのである。

 こういった問題の責任は、やはり全ク連にあるといわざるを得ない。ほとんどシェアもないままに、国の代表者のように振る舞われては、国民や消費者はそのように思うだろう。全国の消費生活センターでは、消費者からの苦情が寄せられ、それを各地の組合事務所に連絡し、組合員ではないからわかりません、などと答えられているのだろうか?それでは何の解決にもならないだろう。

 全ク連といっても、各地の組合や加盟業者に責任があるわけではない。厚生労働省の天下り役人と結びつき、甘い汁を吸っているのは、ごく限られた上層部の人物だけである。そういった現状は末端の組合員には何も伝わっていない。

 

全ク連だけが悪者ではない

 ただ、ここ最近の問題については、必ずしも全ク連だけを悪者にできない事例も出てきている。全ク連の存在は組織上の問題であって、それぞれの苦情事例とは別物であるからだ。

 消費生活センターと接触したきっかけは、1年ほど前にこの紙面でも紹介した「ハッタリ価格」だった。ワイシャツを90円とかかなり低い価格に設定し、客が持ち込んでみたらカウンターに「90円は真っ白だけ」などと書いてあり、追加料金が請求されるというものである。

 勿論、こんなことが良いわけがなく、景品表示法に抵触するという意見ももらっている。このときには地元組合理事長を説得し、センターに動いてもらった経緯がある。後でわかった話だが、このときは公正取引委員会まで問題が届かず、センターが問題の業者に対して是正指導を行い、業者が大人しく従ったのでそれで終わったのだという。結局この業者は、ほとぼりが冷めるとまた同じよ うなことを繰り返し、問題はくすぶり続けている。

 この「ハッタリ価格」に類することは、この業界にまだまだたくさん起こっている。この紙面で度々紹介している事例でも、「最初の客であることを示すタック」があったり、意味不明の加工によって追加料金を取ったり、落ちるかどうかわからないシミを受付の時点で「シミ抜き料金」を請求するなどは、もはや業界では日常茶飯事になっている。それぞれ法律に照らし合わせてみれば、かなり怪しいこの業界の手法である。

 この様な問題が起こる背景にあるのは、当業界の激しい価格競争である。昭和40年頃に急激に増えたクリーニング業者だが、価格戦略以外にはこれといった作戦が見当たらず、激烈な競争の中で、身を削るような低価格合戦を繰り広げている。特に、約10年ほど前からはクリーニング店がスーパーなど大型小売店にテナント出店することが増え、価格や納期に関し上から干渉されるようになった。安売り競争にも限界があり、こういう情勢の中で、クリーニング業者側があの手この手と怪しげな方法を考え出し、それが結果的に消費者を欺いているのではないだろうか。それは、一時大きな話題になった食品偽装問題と類似している。この業界構造の中に全ク連の姿はなく、完全に蚊帳の外である。そういう団体が消費者への唯一の情報提供機関では、トラブルが増加するのは当たり前である。

 

もっと消費者のために

 今回感じたのは、クリーニング業界の混乱により、最も大きな被害を受けているのは他ならぬ消費者であることである。日本はクリーニング需要が世界一であり、多くの方々がクリーニングを利用してくれるありがたい国である。ところが、そういう消費者に対し、十分な情報を提供せず、むしろ欺くような行為ばかりを繰り返しているのでは、恩を仇で返しているようなものだ。もっと消費者の利便性を考え、業界としてきちんとした対応をするべきではないかと感じる。

 別のページで示したように、一部の業者の間では、クリーニング業者が一方的に有利な約款を顧客に押しつけたり、「ノークレーム」などと書かれたタックを使用してクレームを避けるような行為が行われている。クレームがないに越したことはないが、一般客にまでそれを押しつけるのはどうだろうか?ここにも顧客を無視した営利主義が感じられる。顧客のすべてをクレーマーと決めつけ る「性悪説」では、客が引いてしまうだろう。こういう業者の登場は、その業者だけの問題でなく、クリーニング業界全体のイメージを損ねる結果にもなるだろう。

 数年前に消費者庁が誕生したとき、消費者庁と全ク連との結びつきが強くなり、我々を圧迫するのではないかと心配したことがあった。だが、現実は逆だった。全ク連は自分たちの非常に狭いからに閉じこもり、そこから一歩も出ようとはしなかったのである。これによってクリーニング業界は無法地帯になり、低価格競争のなかから怪しげな手法を行う業者が発展していった。これでは、いくら消費者庁を発足させても、全く対応できないだろう。消費者庁や全国の消費生活センターに、shんじつの情報を提供することが急務である。

 世界で一番クリーニングを出してくれるありがたいお客様を前にして、私たちはそのお客様の便宜を図り、喜ばれるものを提供することが使命ではないだろうか?もはや全ク連はそういう気持ちは全くなくなっている。消費者とクリーニングとの連携を務めることが、全協の役目になったように思える。

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消費者のために運営される消費生活センターだが・・・