業界の労働問題を改善せよ(人手不足の原因は何か)

深刻な人手不足

 現在、当業界に大きな難題がふりかかっている。深刻な人手不足である。毎日の操業をする上では、いつでもマンパワーに頼らざるを得ない。その働き手を捜すのに大変な苦労を強いられているのである。

 以前、このニュークリーナーズにすき家などの事例を紹介し、人手不足時代の予兆を伝えたが、まさにその通りの現実となった感がある。人手が足りず、幹部まで現場に駆り出されているような話をよく聞くようになった。

 クリーニング業界においては、「バブル期」の平成2年を頂点とする時代において、やはり長引く人手不足を経験したことがある。この時代には他産業の景気が良く、バブル期でもそれほど伸びしろのないクリーニングに人が来なかったという事情があった。しかし、この時代にはまだまだ取次店が主体であり、多くの会社では工場の人員だけ心配すれば良かった。現在は直営店の時代となり、店員を集めなければならない。おまけに、工場は日曜も稼働しており、テナント店の営業時間もずっと長くなった。今回は労働者自体が減少しているのに、以前よりもたくさんの働き手が必要なのである。その様に考えれば、現在の人手不足はバブル期よりもはるかに大きな問題であることがわかる。とにかく人手不足は、当業界が初めて直面し、真剣に考えなければならない最大の課題である。

 

徒弟制度で伝わったクリーニング業界

 もともと日本のクリーニング業界は、徒弟制度のもとで伝播した経緯がある。クリーニングを志す人は、既に開業している業者の元へ行き、丁稚奉公して技術を学んだ。昭和40年代に優れた洗濯機や仕上げ機が登場し、企業化した業者が急増、やがて、市場のほとんどは大手業者のものとなった。

 しかし、クリーニングに関わる業法や制度、行政の対応は、昭和30年代から何も変わっていない。何百人もの従業員を抱えるクリーニング会社が登場しても、行政や法律の認識では、クリーニング業者の仕事は「問屋制家内工業」そのため、大手クリーニング業者の労働体系が全く業者任せになっているのだ。

 大勢の従業員を抱えれば、相応の対応が必要だが、その様な話し合いや勉強会が行われたという話は聞かない。どこの地域でも、商工会議所では労働関連の様々な講習会、勉強会などが行われているが、当業界でそれを利用している方がいるかどうか、わからない。

 先日の全ク連発行「クリーニングニュース」の中でも、「クリーニング業界は週44時間」などと書かれ物議を醸したが、厚生労働省認可でそうなのだから、当業界の労働認識はその程度なのかも知れない。人手不足を嘆く前に、充分討議する問題であった。当業界の特質がそうさせたのではあるが、大勢の従業員を雇用している以上、繁忙期と閑散期の差が激しく、年中無休、交代制などといった当業界の特色を検討し、クリーニング労働のあり方を改めて考えるべきだと思う。

 

クリーニング業界の労働問題

 さて、当業界の人手不足や労働に関連して、現在大きな問題が起こっている。

 昨年2月、大手クリーニング会社から他の業者に転職した従業員がいた。新会社に来て、仕事内容や待遇が以前と全然違うのに驚いた。前職は連日サービス残業の連続であり、店員は完全一人体制(ワンオペ)を強制され、二人で仕事をすると、片方の時給が出ない。繁忙期のみ「ダブリ時間」といって、店員が二人で仕事をしていい時間を指定されるが、これも時間当たり売上が5000円以上ないと支給されない。毎月互助会費が天引きされ、掃除用具、ティッシュなどの備品も自前。紛失品の賠償も自分で支払っていた。

 この人は労働組合(ユニオン)に入った。組合は前職に団体交渉を申し入れ、残業代の払い戻しを要求したが、先方の社長は「一時間に46点くらい楽にさばける」などと言い、支払いを拒否した。

 これに対し、組合はこの会社各店にチラシ、アンケートを持って訪問、遠方の店舗には郵送した。会社側は必死にそれらを回収、各店にも回収を命じたが、不満をつのらせていたこの社の店員達は、改修前にアンケートをコピーし、回答して組合に郵送した。この数は50通以上だったというから、いかに不満が鬱積していたかがわかる。回答アンケートも、サービス残業や過酷な労働の実態をびっしりと書き込んだものばかりで、もはや暴発寸前の実態も判明した。組合のビラ、アンケートを従業員に見せまいとする会社側と、必死でアンケートに答える従業員との攻防はすさまじいが、客観的に考えれば会社側は実態を知られたくない事情があったわけであり、大変見苦しい。

 これによって会社側は方向を転換、二度目の団交で残業代や経費など約60万円の支払いを行った。従業員が自腹で弁償したワイシャツ代や、会社行事に使用されていた互助会費まで払い戻しに応じた。

 このほか、昨年末の展示会では別の会社の労働問題が話題になっていた。こちらもほぼ同様な内容だが、組合は交渉の状況や経営者の様子などをユーチューブでアップするなど、過激な対応が行われている。こういった話が複数で起こっている現実は、当業界で労働問題がくすぶり始めている危険な兆候を示すものであるともいえる。

 

労働環境の整備を

 この様な事例を知る限り、価格競争が労働者の賃金や待遇にまで影響が出ているとみるべきだ。会社が残業時間を指定したり、時間当たり売上が達成できないと賃金を払わない等というのはブラック企業が好んで使用する行為であり。勿論違法である。

 この様な会社に勤務した従業員はどのように思うだろうか?「クリーニング業界はなんとひどいのだろう」と信じ込むに違いない。業界全体がそうなのだと思うだろう。紹介事例の人物はたまたま親しい知り合いがいたから転職したのだが、普通はまず同じ職業には行かない。ハローワークなどの公的機関にも情報は流れていく。そのように考えると、労働基準法を根底から無視したような仕事をさせている同業者により、当業界へのイメージが極度に悪化し、私たちへの就労にも影響を与えているようだ。

 人手不足は深刻な問題だが、人が足りないからその分過酷な労働を課していいはずがない。ましてや、ブラック企業の手法をそのまま取り入れた様な労働環境であっては業界全体のイメージダウンとなる。

 人手不足を嘆く前に、まずは当業界の労働環境を真剣に話し合ってみてはどうだろうか?思わぬ同業者の不心得な行為が、業界全体の就労への大きな足かせとなっている可能性は高い。事例で挙げた業者達はいずれも大きな会社であり、そこには当然、何百、何千という従業員が就労している。その人達の大半が不満を持っているとすれば、影響は計り知れない。業界全体が「とばっちり」を受けるのである。

 こんな会社のように、営業時間が労働時間と同じになっていたり、上司がタイムレコーダー打刻後の仕事を命じたりしていないだろうか?近年、受付レジが高性能になり、タイムレコーダーを兼ねているものがあるが、営業時間終了後に打刻がしにくくなるのは問題である。

 ブラック企業と呼ばれた「ワタミ」や「すき家」は、過酷労働、違法労働が発覚、悪いイメージが人手不足を呼び、一気に赤字となった。クリーニング業界が明日の「ワタミ」、「すき家」になってはいけない。現時点でクリーニング業界はだれも労働問題を取りあげないが、人手不足が深刻な現在、どうやってこの業界に人を呼ぶか、どのように労働環境を整備するか、真剣に考えるときが来たようにも思われる。