言論弾圧?自由の侵害?酒田市立図書館に挑む
「クリーニング業界の裏側」貸出禁止は意外な理由だった
貸出禁止の私の本
2018年、私は「クリーニング業界の裏側」という本を上梓している。同書はNPO法人クリーニング・カスタマーズサポートの活動を通じ、クリーニング業界の問題点を列記して、特にブラック企業の不正を告発する内容が強調された内容となっている。
同社はあちこちの図書館に寄贈し、その中に山形県の酒田市立図書館があった。図書館はネットで蔵書を検索できる。私はこの図書館で自分の本を検索してみると・・・。
なんと、貸出禁止になっていた!このようなことは初めてだ。他に寄贈した図書館を確認すると、どこでも貸出は行っている。なのに酒田だけ貸出禁止とは・・・。ちなみに同じ山形県の山形市や米沢市などはどこも貸出自由である。貸出禁止は酒田市だけだ。
酒田市立図書館の検索結果。このように貸出禁止となっていた(現在は貸出できるようになった)
言論の弾圧か?
なぜ貸出禁止にするのだろうか?思い当たる節はある。「クリーニング業界の裏側」では、酒田市の本社のあるクリーニング業者のことが多く書かれている。別にこの会社を糾弾しようという趣旨ではないが、建築基準法違反、不自然な追加料金、労働基準法違反、過労死ラインを超える残業、パワハラ、保管していない保管クリーニングなどやたらと問題行為ばかり起こす会社なので、必然的にページを割く割合が多くなってしまうのだ。
ブラック企業であっても、一応、酒田では一番の大会社。政治や行政との関わりはあまり多くないと聞いているが、全くの推測ではあるが、もしかしたら、酒田市の誰か関係者が図書館にプレッシャーをかけ、私の本を貸出禁止にさせたのではないだろうか。
以前、私はこの地域の銀行から、私が送ったメールの内容を印刷され、批判した会社に渡されたことがある。これは立派な情報漏洩、個人情報保護違反であり、新聞も大きく扱った。銀行員が法律を犯してまで、同郷の企業の側に付いたのである。山形の別の地域の方からも、この地域は閉鎖的だとも聞いている。そう考えれば、図書館が同様のことをしたと考えられなくもない。
折しも日本学術会議の問題が未だくすぶっている中、公共の図書館が地元のブラック企業を守るため、貸出禁止にしたのだろうか?そうであれば言論の弾圧であり、自由の侵害である。酒田は中国のように自由のない世界なのだろうか?謎は深まるばかりだ。
2009年、銀行がメールの内容を取引先のクリーニング業者に漏らした事件を扱った朝日新聞の記事。銀行が情報漏洩をするのだから尋常なことではない
別な意見も
しかしながら、この件を話した方からは「貸出禁止は大切な本だから貸し出さない場合もある」と聞いた。確かに、翌年私が書いた「大空への夢」は普通に貸出自由になっているし、もし市民に見せたくないなら、そもそも図書館には置かないだろう。これはどういうことだろうか。
酒田市立図書館を訪ねる
これは、いって事情を聞いてみるしかない。酒田は大変遠いが、やむを得ない。
酒田市に行くには、まずは東北自動車道を北上、山形自動車道にはいるか山形中央道を行くしかない。山形市に付いたらそこから山形道を西に向かう。すると高速道路は途中で終わり、月山の山越えとなる。厳しい山道を越えるとまた高速道路となり、やがて酒田に到着する。
酒田市立図書館は大変立派な図書館だった。入り口付近にはこの地出身の石原莞爾と大川周明の書籍がズラリと並んでいた。二人ともかなりの研究書があるものだと感心させられた。地元出身の人への愛着はかなり強いようだ。
意外な回答が・・・
私は受付の方に事情を話し、担当者への面会を求めた。すると女性の方が現れ、私は聞いた。「この図書館では私の本が貸出禁止となっている。貸出禁止にされているのはここしかない。これはどういうわけか」と率直に尋ねた。すると、返ってきた答えは非常に意外なものだった。
「この本は郷土本です。郷土の本は地域の人に読んでもらいたいため、貸出禁止にしているんです」
なんと、拙著は「郷土本」扱いされていた!石原莞爾、大川周明と同等扱いだ!私は理由を聞いたが、「酒田のことが中に出てくるから」だそうである。
また、もう一冊あれば、一冊は貸出自由にできる。郷土本の献本は複数でもらうようにしているとのことだった。そこで私は持参した一冊を献本し、貸出用にしてもらった。後日確認したが、間違いなくそのようになっていた。これは感謝申し上げたい。
「心の広い」酒田市
というわけで、酒田市の疑問は解決した。
ただ、引っかかる点はある。「クリーニング業界の裏側」は、クリーニング業界の問題点を連ね、それに立ち向かっていくNPO法人クリーニング・カスタマーズサポートの活動に付いて書かれている。すべて事実であり、業界の改善を目指し、ブラック企業の非道行為に悩む人を救う目的で書かれた書だが、前述の通り、酒田市に本社のあるクリーニング会社を猛烈に批判している。地元の会社をボロクソ書いている本を、市民が読むべき郷土本にしているのはなんとも不思議ではある。
しかし、この地出身の石原莞爾と大川周明に関しても、それぞれ人によって評価の分かれる著名人である。この二人の研究本があれだけたくさん蔵書しているのを見る限り、酒田市の方々は、見解の分かれるような意見を多方面から聞き、あらゆる見地を集めて結論を求めるような、広い心を持つ見識の深い性格なのだと思う。したがって「クリーニング業界の裏側」に書かれた問題に関しても、酒田市が抱える一つの問題ととらえるか、酒田市に関わる社会現象として考えておられるのかも知れない。ブラック企業問題も森羅万象、人間のなせる業とみなされるのだろうか?ともかくも、非常に意外な結論ではあった。
ただ、ブラック企業は多くの人々に多大な被害をもたらす迷惑な存在であることに違いはない。酒田の企業が、多くの人々を苦しめているのは事実なのだ。せっかく郷土本として扱っていただけるなら、その点はきちんと認識し、できれば市としても改善の方向へ導かせていただきたいと思う次第です。