提言・クリーニング業界紙はちょうちん記事をやめろ!

業界紙はちょうちん記事をやめよ

 

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(クリーニング業界には、現在業界紙が3紙ほど存在する。それらの中には、えっ、なんでこんなことを書くの?と不思議になるようなビックリ記事も見受けられる。これはそういったクリーニング業界のちょうちん記事について書いたもの)

 

 現在、当業界では数社がクリーニング新聞を発行している。クリーニン グは専門職であり、情報を得られる機会が限られているため、業界紙の記事情報は大切である。しかし、業界紙は「事実を」、「正しく」、書いているのだろう か?伝えられている記事はみんな事実なのだろうか?今回扱うこの問題は、クリーニング業界に根深く横たわる病巣である。

 

とんでもない話

 3年ほど前の年末、業界紙の人たちが集まった会合があった。その席で、ある業界紙編集長から大変衝撃的な話を聞いた。

 この方の話によれば、あるクリーニング大手業者が、業界紙3紙をどこかに呼びつけ、自分の思っているとおりに記事を書くよう指示し、それに対して報酬を支払うと言ったというものだった。要するに、提灯記事を依頼したということだ。

 これは唖然とさせられる話題である。業界紙といえども、少なくとも全ての業者から購読料をもらって記事を書くのだから、その内容については公明正大でなければならないだろう。それを、よりによって業界紙を全部呼び、金を払うからよく書いてくれという、この業者の厚顔無恥さには呆れる。いったいどういう育ち方をすると、こういう考えが浮かぶのだろうか?一般常識を覆すメチャクチャな話である。

 ただ、この記者はなぜ私にこういう話をしたのだろうか?その点は今でも不思議である。純然たるクリーニング業者である私に対し、この様なことを業界紙が話す背景にあるのは、これは、全くの拡大解釈かも知れないが・・・、こ の業界の提灯記事体質がどうにもならず、業界側から助け船を出して欲しい、とのSOSサインなのではないかとも感じられた。ともかくも、クリーニング業界 には提灯記事を依頼する業者がいることはわかった。

 

不思議な業界紙記事

 確かにいわれてみれば業界紙には「あれ?」と思わせるものが時折見受 けられる。今から10年くらい前、「オゾン発生装置」という機械が販売され、業界紙はこれを盛んに記事にしていたが、一般紙で「100円クリーニング」が叩かれてからは、まるで、何もなかったかのように姿を消した。

 その数年後、トヨタ生産方式が業界で流行し、多くの業者がこの手法を取り入れ、ノウハウとして販売された。中でも九州から出てきた所は機械業者にも後押しされ、30年くらい時代を逆行したようなドライ機と共に、業界紙をいつも飾っていた。

 しかし、これは売り方が乱暴だった。売り手はそれまでの設備を捨て、全部機械を一新することを要求した。これもある日、忘れたかのように消え去ってしまった。この様に、当業界では業界紙が何かの機械やノウハウを、いかにも素晴らしいともてはやし、突然消えてなくなることが多い。

 2009年には建築基準法問題が起こった。このとき、一般紙は一部業者の不正な手口を記事化したが、不思議とクリーニング業界ではそれがなかった。一般人とクリーニング業界人では立場が違うということか?耐震偽装疑惑事件と似ていて、どこまで広がるか、各業者は戦々恐々だったのかも知れない。

 このとき、別の業界紙記者が私に会いに来た。この方とこの問題について長く話をしたが、この中で、「うちは、今後提灯記事はやめることにします」と言葉が出た。唐突だったのでこっちがビックリしてしまった。この言葉の真意は不明だが、このタイミングでこういう話が出てことを考えれば、これは、全くの拡大解釈かも知れないが・・・、不正により摘発された業者の提灯記事にはもう辟易としていて、これでもう、提灯記事をやめる、という決意表明だったのかも知れない。提灯記事は昔からの悪癖で、硬直した業界の体質では、一人でいくらがんばってもダメ、ということだったのだろうか?この方自身が、クリーニング業界の体質を改善しなければ、と考えていたようにも感じられた。

 

提灯記事の事実を告白!

 しかし建築基準法問題発生以降も、一誌だけは「提灯記事」とおぼしき記事を延々と続けていた。特に、不正で摘発された業者をやたら持ち上げ、「ピンチをチャンスに」など、まるで不正の事実を隠蔽するかのような書きぶりであった。紙面も他紙とは違ってきたので、露骨な提灯記事ぶりがクリーニング業者どうしでも話題になり始めた。

 建築基準法問題については、一部業者は行政に虚偽記載をするなど確実に悪質といえる手法を行っている。しかし、不正な手法の実態には全く触れず、法律違反を大々的に行っていた業者の発展ぶりばかりが記事となっている。まるで北朝鮮の機関誌である。これでは、提灯記事のそしりは免れないだろう。

 こんな折り、「放射能汚染に怯えている」という記事を巡ってこの記者とぶつかり、「なぜそういう記事を書いたのか」と詰め寄った中で、「あなたはいつでも一社の提灯記事を書いているじゃないか!」と、提灯記事問題に言及した。これは、興奮して思わず発した言葉なのだが、相手はしばらく無言の後、「それは、他だって同じじゃないか。私が業界入りしたとき、既にそういうことは あった」と返答した。

 これは、業界の提灯記事を肯定する言葉だった。周りもやっているから、仕方がないという意味だ。あんまり正直に言うので、こっちが面食らってしまった。

 この方は開き直ってこんなことを言ったのだろうか?以前は信頼の置ける方だっただけに、この言葉には驚いたが、普通、悪いことをしている人が、正直に「はい、やってますよ」などと言うものだろうか?絶対そんなことはないだろう。

 これも拡大解釈かも知れないが・・・結局のところ、この人も、提灯記 事を受けざるを得ない現実に強いジレンマを感じ、この事態から解放されたいと願っていたようにも感じられた。人から金をもらって調子のいいことを書くなど ということを喜んでする人はいない。背景にあったのは何だったのだろうか? 

 私には、クリーニング業界に提灯記事が存在しているにせよ、それが業界紙だけの責任であるとは思えない。業界と業界紙は一蓮托生で、お互いが持ちつ持たれつの関係である。業界紙はクリーニング業界の鑑、業界紙の善し悪しは業界次第であり、提灯記事を正直に告白する人が先導しているとは到底思えないのである。この業界の体質が、提灯記事という異常な行為を引き起こしていたのではないか。世の中なんて、金でどうにでもなると思っている、絵に描いたような悪人が、この世界には存在するということだ。

世間に公表したくない現実が、この業種には多すぎる。そうなれば、業界紙が根本的に悪いわけではなく、それをたきつけたクリーニング業者の方に、より悪質性を感じる。まともに教育を受けた人が、業界紙を呼び出して金の話などするわけがない。言外の意味を読み取らなければならない。三紙の対応を見る限り、この世界の業界人により、提灯記事を無理矢理押しつけられている切なさ、やるせなさを感じるばかりである。

 

提灯記事はやめよう

 こういうこともあり、私は社団法人日本専門新聞協会という団体に連絡し、専務理事の方にご意見をうかがった。この団体は、様々な業界の業界紙が加盟している団体である。

 話によれば、昔は他の業種においても提灯記事の問題が多かったらしい。そこでこの様な団体が発足し、倫理綱領を設け、不正な記事、宣伝文句のような記事を是正しているとのこと。入会は月間3回以上発行の紙面に限られ、厳しい審査もあるという。結局、提灯記事を是正するためにこういう組織が作られたのだった。クリーニング業界は他産業と比較し、まだ発展途上の状態だった様だ。他の産業でも、黎明期には業界紙に提灯記事を堂々と書かせるような無頼漢が存在したのだろうか?なかなか興味深い。

 業界紙が業界人を惑わすような記事があっては困る。真実の報道がなくなり、業界人はニセの情報に惑わされることになるだろう。「素晴らしい仕上げ機が登場した」、「すごいシステムで、大もうけ!」,不正して摘発されたのに、「「ピンチをチャンスへ」・・・これでは、クリーニング業界紙はテレビで深夜に放送される通販番組のようである。これを望ましい状態という人はいないだろう。

 建築基準法問題では、一般紙はクリーニング業界が違法状態であることを糾弾した。ところが、業界内の紙面は、この問題をいかに解決するかばかりが論じられた。挙げ句の果てに、一番不正をしていた業者の提灯記事が次々と登場した。違法行為を是正しなければならないところに、違法業者を褒め称える業界というものは他にないと思う。提灯記事の撤廃とともに、善悪を正確に判断する倫理性も重要であると思える。

 金を払って有利なことを書かせるような、非常識な業者が業界にはびこれば、業界は嘘が当たり前になり、異常な状態となるだろう。クリーニング業界が世間一般に今ひとつ認められないのは、こういう悪徳業者がいるのが最大の要因ではないか。一刻も早い業界紙の提灯記事の撤廃を望みたいが、それは業界紙だけでなく、それを後押しする我々クリーニング業者のバックアップも必要に なってくるだろう。