日本は民主主義を拒否した国
安倍元首相襲撃事件を考える
衝撃的な事件
2022年で一番衝撃的だったのは、やはり安倍元首相襲撃事件だろう。日本で最も政治力を発揮し、首相の座を譲った後も現在の首相よりはるかに大きな影響力を持つ日本最高の実力者が、プロでもなんでもない人物に手製の銃で狙撃されることなど、誰が考えられるだろうか。
この日、私は山形にいて、自社の事業所にいたとき、スマホに「安倍元首相、銃撃さる」の文字が見えて仰天した。その日の夜、米沢の居酒屋で死亡をテレビで知った。戦前は首相やそれに近い実力者の暗殺事件が何度かあったが、それと全く同じようなことが現代の世の中に起こったのである。街頭演説中の襲撃事件であったため、この時点でははまだ「言論の自由の弾圧」などといわれた。
しかし、すぐに事態は急変した。狙撃した容疑者の動機が、宗教団体に母親が入り、献金で生活をメチャクチャにされた復讐にあったからである。容疑者は宗教団体のトップの暗殺を計画していたが叶わず、この団体を応援し、広告塔のような形でバックアップをしていた安倍元首相を狙ったのだった。
この宗教団体については、私は学生時代にその存在を知っていた。信者を増やそうと怪しげなセミナーに行かせようとしたり、アンケートと称してどこかに連れて行くなどという情報が伝わり、先輩達からは絶対に付いていったり付き合ってはいけないなどと、しきりに注意されていたことを思い出す。田舎から上京した学生にとっては、とにかく一番の危険であった。この頃にはいろんな製品の物品販売も行っていて、テレビの放送番組などでも何度もその怪しげな行為は報道されていた。自分の意志で相手を選ばない合同結婚式などもよく報じられていた。この宗教団体は非常に反社会的で、多くの人々が家庭崩壊などの被害に遭っているという認識は多くの人々が昔から持っていたと思う。
大きな失望
事件の真相を知り、私は猛烈な失望感に襲われた。日本の政治の中枢にある人たちが、ほとんどこんな反社会的なカルト教団と密接な関係があるとは・・・。
政治家は、票のためならなんでもするという。しかし、このカルト教団は韓国に本拠があり、いわば日本の金を巻き上げる行為を頻繁に行い、国益とは全く逆の存在である。そんなものと票の為に長年にわたってつながっていたのでは話にならない。しかも、暗殺された安倍元首相は祖父の時代から密接な関係にあったという。親子三代にわたって付き合いがあったのである。
政治家にはこの国を良くする、国民を幸福にするなどという考えは毛頭なく、ただ、自分の私腹を肥やすために選挙に勝つことだけが目標であり、そのためにはどんなあくどい相手とも手を組むことがわかった。こんな国だったのか、という失意が大きい。安倍元首相はとばっちりを受けたのだと思っていたが、真相がはっきりしてくると、容疑者の意志とは関係なく、ターゲットとなる候補としてこれ以上の人はなかったのかとさえ思えてくる。
クリーニングも宗教団体と同じ
政治家がカルト教団とつながっていたことへの失望は、全く同様なことを、自分の商売であるクリーニングで感じていたからだ。
ほとんどのクリーニング店はドライクリーニング溶剤として引火性の石油系溶剤を使用している。これは猛烈に燃えるので建築基準法により、工業地での使用しか認められていない。しかし、人がたくさん集まる商業地、住宅地で工場兼店舗を始めると収益性が高いことがわかり、各業者は違法と知りつつ石油系溶剤を使用した。業界では行政を欺く手法がノウハウのように伝わり、7,8割が違法操業という異常な状況となった。
2009年、不正で儲けた大手2社が摘発されると、国土交通省は一斉に全国のクリーニング所を調査した。改善した業者もいたが、同年9月に発表されたのは50.2%が違反ということ。クリーニングは合法より違法の方が多い異常な業種である。
これらは行政の指導により改善されるものと思ったが。10年以上過ぎた今も多くの業者は大手を振って違法操業している。実は生衛法という法律によって結成されたクリーニング生活衛生同業組合は、全国クリーニング業政治連盟なる政治団体も運営し、選挙のときには主に与党の政治家に推薦状が配られ、選挙活動の手伝いもする。特に違法操業の多い生活衛生同業組合は政治家に働きかけ、自らの違法操業に行政が動かないようにしているのだ。
不正行為、違法行為を政治家に協力することにより見逃してもらう・・・これでは宗教団体と何も変わらない。政治家の選挙活動に協力すれば、違法行為を行ってもよいというのが今の日本のあり方だ。
建築基準法違反業者を擁護する人たちの意見には、しばしば「零細業者がかわいそうだ」と唱えるものが多いが、大手業者も多くこの不正に手を染め、不当な利益を得ているし、真面目にやっている業者にとってこんな腹立たしいことはない。「悪いことをした方が儲かる」という現実を突きつけられて怒り、呆れるばかりだ。
民主主義を拒否した日本
日本は選挙の際、投票する人の数が異常に少ないという。選挙に行っても、何も変わらないからというのが大きな理由である。しかし選挙で国民の民意を示さないと、不正な政治家がますますつけあがるばかりだ。
日本固有の大きな問題の一つに「ブラック企業」問題がある。労働基準法を根底から無視して不正を繰り広げているくせにどんどん巨大化する企業は多い。こういう会社には寿司、牛丼、居酒屋などの飲食業、接待飲食業、理美容業、そしてクリーニング業などが多い。これらはすべて生活衛生業種で、生衛法という昭和32年施行の法律で「零細業者ばかりの職種」と定義されている。実際は多くの業種で大手が市場を席巻し、零細業者のシェアなどごく一部だが、生衛法で規定された生活衛生同業組合が政治連盟も持っていると、政治家はそちらの意見しか聞かなくなり、市場の大半を占める大手業者は全くフリーになって不正な競争が繰り広げられる。ブラック企業が誕生するのはこのような理由によるものである。こんな現代社会をまるで反映していない法律ならすぐに改善するべきだが、利権を持つ団体によってそれができない。また、政治家もそれと知りつつ選挙に勝ちたくて何もできないのだ。
ブラック企業問題のように、本来、海外と比較して著しく劣る日本固有の問題(もしくは日本で顕著な問題)ならば政治や行政が解決しなければならないし、民衆はそういう政治家を推すべきだろう。しかし選挙にすら行かないのだから話にならない。日本は、自ら民主主義、市民が社会を決めるべきであることを拒否した国なのではないか。国民が民主主義を望まないというのなら、これはもう仕方がない。
安倍元首相襲撃事件はあまりにショッキングな出来事だったが、これは矛盾だらけの社会において、鬱積した不満が一気に爆発した現象のようなものではないか。容疑者は安倍氏が憎かったわけではないといっているようだが、そういう状況を作り上げるのに(宗教団体が日本で献金集めなどの活動を活発に行えるように)、一番貢献した人物が安倍氏であったことも確かだ。勿論、安倍氏には生きていて欲しかったが(宗教団体と蜜月の真実や諸々の未解決問題を語ってもらうため)、容疑者の銃口は、あまりに偶然とはいえ一番の責任者に向けられたといわざるを得ない。