建築基準法問題顛末記③ 個人業者の恨み言
クリーニングの建築基準法違反問題は、2009年7月11日にまず大手某社の違反が報じられ、その一週間後に意識的に使用しない溶剤を申告していた(つまり行政をだましていた)ことが報じられた。このニュースは業界全体に伝わった。それは建築基準法違反がクリーニング業界全体のタブーだったからである。日本のクリーニング業界は、集団で不正を働くような状況だったことに私は驚くばかりだった。
そして同年末の12月27日、今度は業界二位の大手業者が建築基準法違反で摘発された。この業者もやり方は同様で、実際に使用していない不燃性の溶剤を行政に申告し、実際には引火性の溶剤を使用していた。この業者は地元テレビのインタビューに答え、「業界の75%~85%は違反している」などと、ある種開き直りとも取れる弁解をした。これにより、国土交通省は日本の全クリーニング所を調査すると発表、違反だらけの業界は大騒ぎとなった。業界紙には「問題と不安、業界全体に」などというタイトルの記事が載せられた。
このクリーニング業界のタブーを世間に知らしめたのが私であることは業界全体に知れ渡った(別に隠すことでもないが)。おそらく、私を恨んでいる同業者が大勢いたに違いない。
しかし、さすがに業界大手は私に対し、恨み言を直接言ってくる人はいなかった。自分が違法なのに、文句を言える筋合いではないぐらいのことは、大手業者なら常識として知っていたのである。裏では言っていても、表だって「よくもバラしたな」などといいうほど恥知らずではなかったのである。
例外は零細業者だった。クリーニング生活衛生同業組合で作られたメーリングリスト(私も一応生活衛生同業組合には入っているので、参加していた)には、以下のような書き込みをする業者がいた。ここでは、彼らの書き込みと、それに対する私の意見を列記していこう。 勿論、彼らも違法操業している。
①今回の鈴木さんがなされたことは非常に遺憾に思います。たとえご自身にどのようなお考えがあったかは別としましても結果的に全国の同業者の皆さんに不安と混乱を招いたことは否定できません。その点については、いかがお思いなのでしょうか?あまり気にしておられないような気がしますが。
不正な利益を得ていた法律違反者を摘発したことが「遺憾に思います」だそうである。「全国の同業者の皆さんに不安と混乱を招いた」のは私のせいではなく、法律を守らなかった業者が悪いのであり、自業自得である。しかし、この人には私が悪いと思っているらしい。彼らには、不正な違法行為を働いた業者が悪いという意識はなく、それを公にした人が悪いということらしい。気にして欲しいのは、違法操業やってる業者じゃないのか。
②結局、利益のためですよね。クリーニング業も商売ですから相手に勝たなくては自分がやられる。家族を守らなくてはなりません。従業員の生活も有ります。それだけですか?もっと冷静になれていたらほかの仲間も見えていたのに・・・多くを失って今は自分を守ってる。そんな感じに見えるのですが。メールをイメージだけで見るとですがね。事実は知らないですから・・・・!
会社は利益を上げることを目標としており、競争相手が法律違反をしていれば追求するのは当たり前である。「ほかの仲間」ってなんだろう?私は不正をして利益を上げるような同業者を「仲間」だとは思っていない。「多くを失って」といわれても、いったい私が何を失ったというのか。不正をしている業者達とガマンしながら親しくすることがいいとでもいうのか。
③さて、今回の建築基準法違反の問題、朝日新聞の報道が特に目立つのは周知の通り。なぜか埼玉県で摘発された業者の記事を書いたのが、福島県郡山支局の〇〇記者。あなたにまつわる、きらやか銀行の個人情報流失事件も記事を書いたのは〇〇記者。そして年末のきょくとう摘発の記事を書いたのも〇〇記者。鈴木さんは〇〇記者と親しい関係にあられるんですか?もしお知り合いで情報を流されたのが鈴木さんでしたら、(私の憶測ですから違うかもしれませんが)「マスコミの行動に責任は持てません」なんて冷たい発言しないでください。(笑)
これは犯人捜しである。この人にとっても、不正を摘発することを悪いことと認識しているようだ。大手某社一社だけだったら摘発が全業者に及ぶことはなかっただろうと違法操業の業者は淡い期待を持っていたようだが、別の大手業者、しかも上場企業が同じ不正を手を染めていたことが発覚し、国土交通省も動き出した。この人にとってはそれが面白くなかったらしい。不正を暴くのが悪いことと感じているようだ。この人ばかりでなく、クリーニング業者にはマスコミを嫌う傾向がある。
④私は現在、中央青年部会の執行部にいますので、立場上、あまりネットに露出するのを控えておりました。しかし、昨日からの皆さんのやり取りを拝見していて大変ショックを受けています。(中略)商売上の戦いは正々堂々、営業で戦えばいいじゃないですか。〇〇〇〇〇は確かに全国チェーンの大手かもしれませんが、鈴木さんも御地元でしっかりと根を張ったご商売をなさっている地元の“大手”だと思います。それは地元のお客様の信頼に確実にお答えになっている結果だと思いますので、大変な時代ではありますが、これからもお互い切磋琢磨で商売を続けていこうではありませんか。
これが一番腹立たしいメールである。不正をしているブラック企業を相手にしているのに、「正々堂々、営業で戦えば」とは何をいっているんだ。こういう人物の考えでは建築基準法違反の業者は仲間とでも思っているらしい。「中央青年部会の執行部」なんて、零細業者しかいないのに偉いとでも思ってるのか。厚生労働省認可の団体がこんなことを平気でいう人物で構成されているというわけだ。
勿論、こんなメールばかりでなく、「不正は不正で摘発するのは当然」とか、「あなたの行為は後に評価されるだろう」などと賛同する旨の連絡をくれた人もいた。中には最初は非常に攻撃的な言葉をかけてきた人物が、後になって、「考えてみれば、こっちが法律違反なんだ」と話した人もいた。クリーニング業者がみんな悪い人ということは絶対ない。全員が全員、悪い奴らではないことは記しておかねばならない。
クリーニング業者は一般人とは「別の人」
このようにこういった業者が建築基準法違反を悪いこととは認識せず、それを世間に伝えた私が悪いという理屈に結びつく考えにはいくつか理由がある。
まず、これがクリーニング生活衛生同業組合のメーリングリストであることが挙げられる。生活衛生同業組合(生同組合)は昭和32年施行の生衛法によって結成された同業組合である。生衛法は昭和32年当時、零細業者ばかりの生活衛生業種に関わる人々を救済する目的で施行された法律で、この法律ではクリーニング業者などを「助けてやらないとならない人たち」という扱いで定義している。こういった生衛史観、一種の劣等感は、自分たちをかわいそうな人たち→助けられて当たり前の人たちといった認識を持たせ、一般からは恥知らずに見えるようなことも平気でいえるような体質がある。そのため「オレたちは零細業者だ。守られて当然だから、多少の法律違反は仕方ない」と思わせる雰囲気を形成しているのだ。
さらにはクリーニング業者の、一般社会からの乖離も大きな要因である。おおよそクリーニング業者というものは、自分たちと、それに関連する業種の人々(資材業者とか)とだけ交際し、他の業種の人たちとの交流がない。この傾向は近年ますます強くなっている。そして、これは零細業者ばかりか大手業者にもこの傾向が強い。一般にある程度の規模を持つ会社ともなると、地域社会とのつながりがあり、何らかの立場を持つのが普通だが、そういった業者は多くない。ブラック企業が社会とのつながりに欠けるようなものだ。何か大げさに言えば、日本社会の中で一般の日本人と共存している別の民族、という感じに見える。一般社会とのつながりの希薄さは、日本の法律を守ろうという意識の希薄さにつながり、自分たちだけのルールがあるような独自のムードがある。建築基準法違反を組織的に行うのは同業者の同族意識が深く関連しているようにも思える。②にあるように、「多くを失って」などという言葉は、そういう同族意識故に飛び出したものといえる。
そして、各生活衛生同業組合は政治連盟を兼ね、多少の票を持っているばかりに、それが政治力となって、このような社会に相反するような団体が存続されていることが一番の問題である。組織的に法律に従わないような団体は存続すべきではない。クリーニング生活衛生同業組合は、違法行為を摘発されて反省もせず、改善もせず、恨み言をいうような連中が「業界の代表」であり、政治家は事実を顧みずにこういう連中とだけ接して票につなげている。